タニタの個人事業主制度に思う
日経ビジネスの2019年10月14日号、
なかなか面白い企画が2本ありました。
1つは、「トヨタも悩む50代問題」
「働かない50代」と言われるバブル入社世代が
人員構成的にボリュームが大きく企業の負担になっている。
その人材にどう活躍してもらうか、という主旨のもの。
自分も40歳なので、10年後は50代。
他人事ではないのですが、高度経済成長の名残の中で、
「上の人たちの言うとおりに、上の人たちを目指して生きていけばいい」
とやってきた人たちが、急にルールや風潮が変わって大変だろうなと感じます。
各メディアでも話題になった制度ですが、
どういった人材が活用し、実態はどうなのか。
経営者は何を意図して導入し、どのような反対意見があるか、
を5ページにわたって特集されていました。
個人的には大賛成の同社の取り組み。
個人的な見解も交えて解説していきたいと思います。
1.タニタの個人事業主制度概要とメリット
タニタは創業1923年、社員数1200名の非上場企業。
「タニタ食堂」などでも話題の企業グループです。
そのタニタでは、2017年1月から正社員が
個人事業主になることを支援する制度を推進。
・2019年10月時点で26名が利用中(本社社員の約10%←結構多い!)
・記事では、3名(営業、エンジニア、営業/新規事業系の方)の事例を掲載。
・基本的に「会社が他に行って欲しくない」エース級社員のみが活用。
・それまでに担当していた業務を個人事業主になっても発注したり、
仮に3年契約を途中で更新できなくなっても、残り契約期間分を支払うなど、収入の安定に配慮。
・タニタの業務+外部の仕事を請けたり、学びの機会を設けたり、フレキシブル。
いやー、もし自分が在籍していた会社にこのような制度があれば、
真っ先に使いたい!と思える素晴らしい制度だなと個人的に感じます。
何より、フリーランス最大の悩みである、
案件獲得と報酬の安定が約束され、
また業務内容も深く理解した内容でストレスなし。
さらに、働き方も自由度が増し、収入も増え、
中長期的に案件や経験の幅を社内外に広げていける。
なんて理想的な制度だ・・・、と思わずうらやましく思いました。
(労災や産休育休時期の報酬の支援はないものの、
退職金支払予定金が報酬に上乗せされる等、非常に魅力的)
社長さんのインタビュー記事から、
制度導入の目的は「辞めてほしくない優秀な人に残ってもらうため」
とのこと。
いわゆる「長時間労働規制」を進めるだけの働き方改革に対する違和感など、
いいところを突いていらっしゃるなと感じます。
成長意欲が高い自律人材ほど、
制限なく振り切って働きたいという想いがあったり、
年功序列的な働き方や会社主導のキャリアパスには我慢できなかったりするもの。
報酬面の安定と自由度を提供することで、
優秀な人材が(雇用形態は問わず)自社業務に携わってくれる。
まさにwin-winです。
2.この制度への反対意見
弁護士さんの反対意見も記事に掲載されており、
労働法違反に当たる可能性もある、
との指摘があり勉強になりました。
(日経ビジネスのこのシリーズは、
両面の意見を載せているので好感が持てます)
労働者か否かを判断する基準である「報酬の労働対償性」が論点になるとのこと。
・指揮監督下の労働=個人事業主になったとはいえ、実質、社員時代と同じ環境下で業務を行う。
・諾否の自由なし=タニタからの業務を請けることが必要であり、自由に業務を選んでいるわけではない。
・一方で、労災などの労働者が受けられる保護がない。
つまり、タニタは、「実質的に正社員」として労働をする人間に対して、
個人事業主にすることで正社員的な保護をしていない、ということかと思います。
※もちろん、タニタ側も反論はされています。
他の社員として働いている人たちとの間でも、
実際は様々な問題/葛藤があるのではないかと想定されますが、
そのあたりは日経ビジネスのような記事では掲載されないち思うので、
いつかタニタ社員・個人事業主の方に直接お聞きしてみたいところです。
3.個人的見解
タニタのようにオフィシャルな制度になっていなくても、
同じような形で働いている知人が複数いるので、
個人にとっても、企業にとっても、メリットの方が大きいかなと思います。
そのため、同じような制度を導入する企業が増えれば、
もう少しフリーランスという働き方に移行するハードルが下がり、
個人にとっては新しい視野で、異なる知見を積め、成長できる、
良い機会になるのでは、と感じます。
「準・フリーランス」というくらいで、
会社員とフリーランスの間を取っている印象ですね。
※本当は、案件獲得・報酬をどう上手くやっていくかを個人で
やりきる方が、圧倒的に学びや成長は大きいと思いますが、
そうなるとハードルが高くなり、
気軽にフリーランスへチャレンジできないのも実態だと思います。
【まとめ】
賛否両論あると思いますが、
オーナー企業のメリットを活かした取り組みだと思いますし、
これが上手く継続し、他社にも広がることになれば、
個人の働く選択肢が広がり、成長も促進されることにつながるので、
非常に魅力的な制度だと感じます。
20代や30代前半くらいまでは、
もしかしたらその会社の中での昇進を目指していくプランもありかもしれませんが、
いずれにせよ30代半ば以降は、
数少ないイスを奪い合う、社内競争/各種闘争の連続。
ほとんどの人が「負け組」で部長クラスで役職定年となり、
役員以上になれないでしょうし、
仮に役員60代で会社を去っても、その後の人生も30年ほど続く世の中。
であれば、早い段階で会社以外の人脈・経験・キャリアの軸を構築して、
いつでも外に飛び立てる経験ができることの方が、
よほど「優しい会社」かなと思います。