採用人事系フリーランス/Segurosの日記

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「大卒内定9年ぶり減」が本当に意味するところは?(2019年10月16日/日経新聞)」

「大卒内定9年ぶり減」

 

2019年10月16日の日経新聞朝刊に「大卒内定9年ぶり減」という記事が載りました。

パッと見ると、記事にもあるように

「VUCA時代で企業も採用に慎重になってきているのか」や

「景気が後退してきているのか」

といった感想を持たれるかと思います。

 

ただ、本当にそうなのでしょうか?

この記事はあくまで「主要924社だけ」の調査結果です。

中堅中小企業、スタートアップ、ベンチャー企業の採用支援を

させていただいている現場目線から、私なりの意見を述べさせていただきます。

 

1.記事概要

簡単に日経新聞の記事要旨をまとめると、下記のような記事内容です。

論調として、「主要企業924社の調査結果から」

「銀行証券、製造業の日本の主力産業での新卒採用が現象しており、

採用環境は厳しいし、経済も下降気味」

ということを主張されたいように映ります。

 

・大卒の内定者数は11万8837人。内定者数が前年の入社数を下回るのは11年度の調査以来。

・銀行は11.1%減、証券は26.4%減といずれも2ケタ減と変化が大きい。

・ただ、全体の集計から銀行と証券を除けば内定者数は1.1%増となる

・しかし、製造業では自動車・部品が5.5%減、機械が3.9%減となるなど19業種中で10業種がマイナス。

・逆に採用を増やしている業種もある。出店を拡大しているドラッグストアなどを含む「その他小売業」(7.2%増)、次世代通信規格「5G」などへの投資が増えている「通信」(9.4%増)。

 

そのため、

・銀行証券を除くと全体では増加していること、

・製造業でも約半分の9業種が増加であること、

・その他小売や通信が大幅に増加していること、

といった事実は箸休め程度にしか触れられていません。

 

2-1.大企業(主要924社)起点の情報は、全てを代表しない

さて、繰り返しになりますが、

この記事の主張は「わずか924社」の調査結果を根拠にしているもの。

大企業に関する情報は、あくまで大企業について2しか該当せず、

もう少し多様な観点・地点からの発想が必要かと思います。

 

2-2.「0.0022%」=全企業の中で主要企業(大企業)が占める割合

まず、記事の主要企業数924社がどのくらい、

日本の企業状況を代表しているかですが、

924社を日本の企業数421万社で割ると、

その割合は、わずか「0.0022%」

 

いかに記事が対象とする主要企業数が

日本の企業の一部しか対象としていないことがわかります。

中小企業庁資料

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chushoKigyouZentai9wari.pdf

 

2-3.異なる観点から見える景色:全体では圧倒的な売り手市場

日経新聞の記事とは異なる情報からはどのような景色が見えるでしょうか。

例えば、リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」

(2019年4月14日発行、大学・大学院卒対象)からは、

全く違ったことが見えます。

 

◎1人当たり約9社の内定が出る

・新卒学生の求人倍率は1.83倍と高水準(民間企業就業希望者44万人に対し、民間の求人数は80.5万人もある)

・中小企業(従業員300人未満)では求人倍率8.62倍と、依然として高水準。

・大企業(5000人以上)では求人倍率0.42倍と、昨年より高まっている。

https://www.works-i.com/research/works-report/item/190424_kyujin.pdf

 

中小企業(300人未満)に限定すると、1人の学生に対して約9社の内定が出る状況。

ご自身を就職活動をしている身に置き換えて考えると実感が湧くかと思いますが、

まさに超売り手市場ではないでしょうか?

(なお、従業員1000人未満に広げると、求人倍率は3.42倍。

例えばマザーズ上場企業や、未上場で成長途上のwebサービス企業等は

この分類に入ってくることが多いと思います)

 

つまるところ、やはり日経新聞の記事は、

「大企業という特殊な一部の事象を捉えての発信である」

ということが言えそうです。

 

3.採用支援の現場から

私が採用人事系フリーランスとして支援させていただく企業群は、

上場企業含めても、規模的には中堅中小、ベンチャー、スタートアップで、

人材を積極的に採用したいという元気な企業ばかり。

日経新聞記事に出てくる、主要企業ではありません。

 

私は主に中途採用がメインですが、新卒採用の状況を傍で見ていても、

自社にマッチする優秀な人材は喉から手が出るほど欲しい、

というくらい採用にどん欲であるのが実態です。

(事業が順調だったり、成長したりしている企業だからですが)

 

確かに、金融機関のように、(言葉を選ばずに言うと)

「事務作業要員や営業ソルジャー要員の人員確保」が至上命題で、

精査する選考をせずに大量採用をしていたような業界は、

テクノロジーの進化などで大量の人員を確保する必要性が薄れるため

採用数は減少していくことは不可避です。

 

しかし、同時に新しい産業や企業が生まれ、

新陳代謝がありながら、多くの企業は人材を必要としています。

 

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※参考資料:

前述のリクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」にある、

従業員規模を2つに分けた求人倍率の推移をみても、

10年周期サイクルで波はありますが、

20年前と比較すると、1000人未満/1000人以上の両区分で

求人倍率は高くなっています。

 

そのため、まずは「日本企業の0.0024%の大企業の採用状況」の記事に

過剰に反応したり悲観したりする必要はないということと、

むしろ就職活動の悪しき在り方が変わっていく良い面もあるかと思います。

 

つまり、就活生のときに深く考えずに「大手企業に入れば安泰」と

就社していく受動的な人が減り、

自分と業界・企業・職種の動向やマッチ度をしっかり考え、

仕事や働き方を選び、その後に転職なり、独立なりしていく、

そういった主体的な動き方が増えるという意味で、良化ではないかなと感じます。

 

【まとめ】

新卒採用の状況に関して、日経新聞の記事からは

新卒採用環境や経済が悪化しているという印象を持ちがちですが、

「対象企業数の日本企業に占める割合」、「別調査結果からの観点」、「採用現場の実感値」から、

必ずしもそうではなく、採用に積極的な業界や企業はある、といったことが言えそうです。

 

過去に人材紹介会社で金融機関を担当していた経験含め、

大企業の採用が減ることで、中堅中小、ベンチャー、スタートアップへ

就職の選択肢が広がり、より主体的な生き方/キャリア構築の環境が生まれることは、

ポジティブだなと考えています。

皆さんはいかがでしょうか?